選考を受けている候補者のスキルや経験が十分採用要件を満たしていても、カルチャーフィットしていなければ、採用を見送る企業は多くあります。
しかし、このカルチャーフィットという言葉が一人歩きしていて、どのような状態がカルチャーフィットなのか?理解していない人は多いのではないでしょうか。
候補者を選考しているときに、「この人はカルチャーフィットしている」、「この人はカルチャーフィットしていない」などは、ほとんどが面接官の感覚や経験則で決められています。
そのため選考時のカルチャーフィットの基準が曖昧で、面接官によりバラつきがあり、十分な見極めができていない結果、ミスマッチに繋がってしまいます。
面接官の経験や感覚に頼らず、選考時のカルチャーフィットを測るためには、自社のカルチャーを明文化し、定量的に運用することをお勧めします。
組織のカルチャーを測定するためには、色々なアプローチがありますが、ホフステードの6次元モデルやGLOBE指数などが参考になります。
ホフステードの6次元モデルでは、「権力格差」、「個人主義 対 集団主義」、 「達成志向 対 育成志向」、「不確実性の回避度(高い 対 低い)」、 「長期志向 対 短期志向」、「人生の楽しみ方 (充⾜的 対 抑制的)」の6つの指標に対して、どの程度偏りがあるか測るモデルです。
ホフステードの調査によると、日本の企業は、「男性的価値観(達成志向)が強く」、「不確実性に対して回避度が高い」傾向があるそうです。
ホフステードのモデルは、様々な国で事業を展開しているグローバル企業で使われることが多く、日本の中堅中小企業では、あまり参考になりません。その場合は、以下の4つの視点を軸に考えてみると、 自社のカルチャーを把握しやすくなります。
ほとんどの会社では、経営理念を掲げていますが、自社が掲げる経営理念をもとに社員に求めている行動規範があります。
採用時には、会社のビジョン・ミッションに共感でき、コアバリューをもとに行動ができるかどうか見極めることが必要です。
例えば、社員一人一人に高い専門性と自律性をコアバリューとして掲げている組織では、自らの能力や人間性を高めるために日々の学習や鍛錬が必要になります。
上記を確認するためには、選考時に「最近読んだ本は何か?」「自分の能力を高めるために、普段からしている行動は何か?」を質問することで、候補者がコアバリューに合っているかどうか見極めることができます。
組織のカルチャーは創業者の考え方や価値観に大きく影響を受けます。例を挙げると「社員旅行や社内運動会を重視する家族主義」、「お客様は神様と考える顧客ファースト主義」、「他社との競争に勝つことにこだわる競争主義」 「借金や赤字を極端に避ける堅実経営」、「地域や社会貢献に積極的に関わる姿勢」などです。
これらは、創業者の生い立ちや経験が深く関連しています。借金や赤字を極端に避ける傾向がある場合は、過去に会社を倒産させた経験があったり、親が自営業で資金繰りに苦労した姿を見ながら育った経験があったりします。
スタートアップのような組織では、20〜30代など若い年齢層で人員が構成されています。これは、事業の成長を重視するため共通言語で意思疎通が測れるよう、意図的に決まった年齢層で構成されています。
また、男女比の割合や、新卒中途の割合、学歴(高卒、専門卒、大卒の割合)も組織カルチャーに影響を与えます。社員のほとんどが大卒者で構成されている場合は、卒業した大学の偏差値の分布も組織カルチャーに影響を与えます。
不動産や金融商品など営業を主体とする組織、IT企業のように開発を主体とする組織、メーカーのように生産や管理を主体とする組織では、それぞれ組織のカルチャーが異なります。
自ら生産拠点を持たないファブレス経営により高収益を実現しているキーエンスでは、決められた業務を徹底的に遂行できる人材が求められます。一方、DeNAのように、変化の激しいIT業界で、常に新しいサービスを立ち上げることが求められる組織では、 創造性が高く、起業志向が強いタイプの人材が求められます。
このように自社の事業内容も企業のカルチャーを形成している要因となります。
過度なカルチャーフィットは組織の同質化を高め、多様性を失わせる要因となると言われています。世界最大級のSNSを運営するFacebookでは選考時にカルチャーフィットを評価の軸としないよう、採用時のルールとしているところもあります。
動画配信で有名なNETFLIXでは、候補者が自社にカルチャーマッチしているかどうかは選考において全く考慮していないと言われています。その理由は以下になります。
「最適な人材を採用する上で重要なことは「カルチャーフィット(文化の適合性)」ではない。カルチャーフィットが良い実例としては、一緒にビールを飲みたいくらいのことでしかない。」
「組織は色々なスタイルに合わせることができる。カルチャーフィットは双方向に働く。つまり入社した人が新しいカルチャーフィットを作ることであり、現メンバーのカルチャーにフィットさせるだけでは、優れた候補者を採用することができない。」
『NETFLIXの最強人事戦略~自由と責任の文化を築く』/ パティ・マッコード/ 光文社
このように選考時にカルチャーフィットを重視していない企業もあり、自社のカルチャーフィットにこだわることで、優秀な人材の獲得を逃してしまったり、組織が硬直して、多様性が失われるリスクもあります。
採用時のカルチャーフィットにより候補者を見極めるためには、自社のカルチャーを明文化し、選考時において、組織カルチャーと合っているのか定量的に測ることをお勧めします。
また、カルチャーフィットが全てではなく、組織のカルチャーは常に新たな人材を採用し、多様性のもと、アップデートしていくことが望ましいと考えられます。
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